光ミュージアムは1999年4月、岐阜県高山市に開館した美術館・博物館を兼ね備えた総合博物館です。木々に囲まれた丘陵地にたたずむ、古代文明の遺跡をモチーフにした地下3階・地上1階建ての館内には、美術品から古代遺物、化石に至るまで幅広く収蔵・展示しています。内装の多くは「土のソムリエ」と称される飛彈の左官職人・挾土秀平氏が手掛けています。
コレクションは西洋絵画、書、日本画、工芸、化石、世界の古代文明や日本で発掘された考古遺物など多岐にわたり、国宝や重要文化財の太刀を含む約16,000点で構成されています。
当館は、生命エネルギーの根源である「光」をテーマに博物館活動を行っています。「光」のテーマは広範囲です。太陽からの光、自然からの光、化石など過去の物質からの光、過去の文明からの光、また芸術・美術、人の心からの光など。
こうした人類に向けて放たれる〝光〟を、多方面にわたり収集・保管、調査・研究、展示・普及することにより、長い年月の中で地球や人類が育んできた歴史をたどり、自然と人類が生み出した優れた美・芸術・文化に触れることにより、〝来館される方々が今後の生き方や未来に希望を見い出せるようなミュージアムでありたい〟と願って、様々な活動に取り組んでいます。
◇光ミュージアムの主な活動
①:本物の芸術品「浮世絵」に触れる
教育普及活動として、高山市内の小・中学校に「本物の浮世絵版画」を持ち込み授業を行なう「出張美術館」を行っています。児童生徒に本物に触れさせ、優れた作品から感動・喜びを体験してもらおうと出張美術館を開催しています。平成15年から文化庁のモデル事業として始まったこの活動も今年で20年を迎え、毎年20校ほどを対象に、浮世絵の実物を間近で鑑賞し、さらに多色摺りの版画を体験していただいています。江戸時代の芸術・文化を学びながら、世界に誇る浮世絵版画の繊細な技術の素晴らしさを知っていただき、先生方や児童・生徒から好評を頂いています。
②:国際交流の推進
当館では国際交流の推進ならびに地域社会の国際化に貢献するため、毎年積極的に世界の古代文明の遺物や優れた芸術品を展示・紹介する国際的な企画展や行事を実施しています。
また大英博物館やM,サックラー美術館など、海外への作品貸出や、国際交流事業として、ルクセンブルクでのEU歴史遺産記念日の「葛飾北斎展」「芹沢圭介展」、台湾国立国父記念館にて「張炳煌・手島泰六友好書作展」他を開催し、海外との文化交流も深めています。
昨年はヒエログリフ解読200年、ツタンカーメン王墓発掘100年というエジプト学的記念年にあたり、ツタンカーメン王墓からの発掘品の高精細レプリカ128点による特別展を開催しました。監修者のヒエログリフ研究家・村治笙子氏による講演会や展示解説を実施し、大好評を博しました。
また、高山市は世界遺産「マチュピチュ」を有するペルー国ウルバンバ郡と友好都市を提携しており、本年は日本とペルーの外交関係樹立150年を記念して、古代アンデス文明展を開催予定です。
③:日本の伝統文化を伝える
当館は「日本の伝統文化を後世に伝える」というテーマを掲げています。そのため、近代日本画や浮世絵のコレクションの充実に力を入れており、特に葛飾北斎「冨嶽三十六景」歌川広重「東海道五十三次之内」「名所江戸百景」、東洲斎写楽、喜多川歌麿などの版画の他、約420点の肉筆浮世絵を所蔵しています。
かつては浮世絵の有名なコレクションが海外に流出してしまうという事例が続き、美術関係者が心を痛めておりましたが、あるプライベートコレクションを紹介された際に「この優れた作品群が海外に散逸することは避けたい。日本の伝統文化、肉筆浮世絵という芸術品を守り、日本の皆様に紹介したい」との想いから、収集に踏み切りました。
江戸時代の人々に愛された浮世絵は、日本独自の芸術として花開きました。なかでも肉筆浮世絵は量産される版画と違って絵師が直接描く一点物であり、直筆ならではの繊細華麗な筆致と優美な魅力に高い関心が寄せられています。
こうした肉筆浮世絵や近代日本画の名品の巡回展を全国各地で開催しており、2023年は4月から6月まで長崎県歴史文化博物館にて、7月から9月まで長野県の水野美術館にて巡回展「美を競う 肉筆浮世絵の世界」を開催しています。お近くの方はぜひ足をお運びください。
④:青少年の未来のために
近隣の保育園や幼稚園、小・中学校の遠足を受け入れ、年代に合わせて美術や自然、歴史を学ぶ解説を行なっています。 また、岐阜女子大学書道コースの書道合宿は13年を迎えました。合宿参加者の中から日展に入選する学生も出てきています。
また「飛騨高山地域お仕事発見隊」という地域の小中学生のお仕事体験を受け入れ、お仕事をとおして〝社会や他人様のために〟という想いを伝えています。これは、「地元では夢を叶えられない」という子どもたちの声をきっかけに、有志企業・NPOが立ち上げた「飛騨高山フューチャープロジェクト」が企画するものです。その主旨に賛同し、当館も初回から参加しています。
体験で来た児童の中には、将来博物館に携わりたいと目標を決めた子や、引っ込み思案だった生活から積極的な学校生活に変化した子、家庭でも積極的にお手伝いをするように変わった子など、様々な良い変化が見られています。
◇展覧会とコレクションについて
当館のコレクションは、自然史、人類史(世界の歴史)、美術から構成されています。
自然史(隕石、鉱物、飛彈地域の化石・岩石)は約12,000点、人類史約2,000点、美術は国宝の太刀を含む約2,000点を有しています。主に浮世絵・近代日本画・洋画・モダンアートを展示しています。その中で浮世絵は、肉筆浮世絵420点・版画220点を収蔵し、近代日本画は横山大観、竹内栖鳳、上村松園、前田青邨、棟方志功など、洋画はモネやゴッホ、ルノワールなどを所蔵しています。そのほか、市川米庵、比田井天来、手島右卿など書のコレクションも充実しています。
人類史展示室は旧石器や、メソポタミア文明、ギリシャ・地中海文明、エジプト文明、インダス文明、メソアメリカ文明、アンデス文明、中国文明、日本の縄文・弥生・古墳時代の古代遺物や文物を展示しています。飛騨展示室には化石・岩石の他、鉱物や隕石、古代飛彈のジオラマや恐竜の実物大模型があります。
お蔭様で当館のコレクションに対し、国内外の美術館・博物館から作品の貸し出し依頼も増えており、これに応えて他館との連携も深めています。
展覧会のほか、施設を利用して講演会や演奏会、ブライダル、ミュージックビデオなどの撮影依頼も多くあります。 館内には可変式の能舞台やステージが設置されており、各種イベントや記念の催しの際に能や狂言等の公演を行うことができます。昨年8月には約650年の歴史を継承する「大蔵流」の狂言公演が行われました。開演直後には、過疎・高齢化が進む飛騨地域で伝統芸能「獅子舞」を継承する「北振若連中」による獅子舞が披露されました。
長い年月をかけて自然や人類が生み出した優れた作品や価値ある資料、それらに関する最新の情報を広く公開することで、来館される皆様の暮らしや心に光を放つことのできるミュージアムでありたいと願っています。
◇光ミュージアムがめざす飛騨と世界の未来
高山市は東京都とほぼ同じ面積という日本一広い市ですが、その9割以上が森林という自然豊かな地域です。古い町並みや風光明媚な土地に癒やされようと、国内外から観光客が訪れています。
古くから飛騨の匠と呼ばれる高い技術者を生み出し、洗練された文化・芸術が息づく町ですが、全国の地方都市と同様に少子高齢化や過疎化が進み、様々な課題を抱えています。
当館は、都会ではなくても本物の芸術に触れ、地方にいながら世界の文化にも触れられる機会をこれからも提供し続けていきたいと考えています。
一方、世界に目を向ければ、まだまだ戦争や紛争は絶えず、様々な問題を抱える国や地域が数多く存在します。そうした対立や問題の解決には、お互いへの理解が不可欠です。
2019年、世界の博物館関係者が集ったICOM京都大会において、組織委員長を務めた佐々木氏は次のように述べています。
「行き着くところ、博物館は、人類の平和と幸福に貢献することに尽きます。そのためには世界の博物館が手をつながなければなりません。国と地域の境を超え、人種の境を超え、時には過去・現在・未来といった時間の軸を超えて、手を繋がなければなりません。そうした空間軸、時間軸を超えて、人々が集まり、手を繋ぐことができる公共空間、すなわち〝文化の結節点〟は博物館をおいて他には存在しないでしょう。だからこそ、博物館の存在意義があるのだと思います。」
私たちは「博物館は、過去・現在・未来をつなぎ、国境や人種の境を超えて、人類が抱える問題を解決するための力になりうる」と信じています。博物館活動を通して、国際交流や異文化理解が進むことで、たとえ国籍や宗教、人種が違っていても、〝私達人類はかけがえのない地球という星に住む、ひとつの家族・兄弟同胞である〟という想いを共有していただければ幸いです。
そしてこうした博物館活動が、未来を担う子どもたちの成長の糧になることを願っています。